以前、統合失調症の薬物治療で多剤併用が行われました。今でも一部で行われています。「こっちの薬で幻覚・妄想を抑え、あっちの薬で衝動性を抑えつつ、そっちの薬で賦活する」ってな具合です。私の身の周りでは「サジ加減」なんて表現が用いられます。この手の調整は医師が敏感に患者の変化を感じ取ろうと試み、各薬剤の特性について信念を抱き、処方箋に向かうのです。その一生懸命な姿勢は素晴らしいものです。
しかし、私はそれを否定します。多剤併用を否定します。これは私だけでなく、今では一般的に否定されています。この様な処方は医師の万能感に基づくものであり、医師ひとりがそんなに万能なハズがありません。自分自身が医師ですが「医師=スーパーマン説」を否定します。
「薬の特性について、医師一人が感じ取れることは嘘かも知れない」
「医師が語る薬の特性は迷信かもしれない」
そう常に自分自身に言い聞かせるように心がけてます。
処方していて、目の前の患者さんにいろんな変化が起きます。しかし、それは1)そう見えただけかもしれませんし、2)たまたまかもしれません。
1)医師の眼は曇ってます
「効け!」と思って処方した薬は効いてくれないと困ります。しかし、そんなことは実際に起こります。薬が効かないと、無意識下に葛藤が生じます。その葛藤を解決するため、効いたと信じることにしがちです(それも無意識下で)。そして、それを信じてしまいます。
違うパターンも考えられます。「効け!」と思って、その患者さんが効かないタイプだったとき、その失望は大きいもの。「効かなかったぁぁっ!(>_<」という印象は非常に強く残り、その薬を「効かない薬剤」と分類してしまうかもしれません。
その他にも、医師は様々な感情を持って処方箋に向かいます。そして、感情は無意識下で医者の診る目を曇らせます。医師も人間なのです。私も、です。
2)「たまたま」に踊らされます
処方をしていると、目の前の患者さんに様々な変化が生じます。例えば……
ルーランを処方して、患者さんが激太りしたことがあります。しばらく「ルーランは太る薬なんじゃないか」と思っていたことがありました。しかし、データとして、ルーランが特に太りやすい薬ということはありません。リスクで言えばMARTAの方がよっぽど上のハズ。その患者さんが「たまたま」ルーランで太りやすい人だったのでしょう。
最近ではジェイゾロフトで患者さんが攻撃的になったことがありました。以前の私だったら「ジェイゾロフトは患者さんを『煽る』傾向があるのか」と思い込んだところでしょう。しかし、アクティベーション症候群はどの抗うつ薬にだって起こること。ジェイゾロフトで自殺関連事象が少ないことを思えば、むしろアクチベーション症候群のリスクが少ないことすら考えられます。
医師が持つ信念は、自分(あるいは知っている医者)の目の前の患者さんに「たまたま」起きた変化がデータの元なのです。
知らないうちに眼が曇り、偶然に踊らされる医者は万能ではありません。薬の特性について、医師一人が感じ取れることは嘘かもしれないんです。医師が語る薬の特性は迷信なのかもしれません。自分自身の感覚も信じすぎないように気をつけてます。
自分としては患者さんを良くしたつもりでも、患者さんやご家族に意見・感想を求めるようにしています。「僕から見て良くなった様に思っちゃうけど、実際にはどうなんだろ」といった具合に。
そして、患者さんに変化があっても、それがデータとしてどうなのかを製薬会社の人(MRさん)に聞くこともあります。目の前の数人や数十人の患者さんよりも、もっと数百人や数千人(場合によっては数万人)を元にしたデータで語られた論文を参考にするようにしています。
このプシコ・メモメモはそんな姿勢で綴られています。薬による患者さんの変化について書くこともありますが、それは論文や本での根拠があるときに限るようにと思っています。なるべく一個人の意見で書くのではなく、一般的にも良しとされていることを元に書くように気をつけています。
さて、これをお読みになった皆さんはどのように感じたでしょうか。医師の中には不快に思った方がいらっしゃったかも知れません。それがすごく不安です。ただ、私達=医師の万能感に疑問だけでも感じて頂けたら幸いですm(_ _)m
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