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2008年2月24日 (日)

自分の万能感を疑え

 以前、統合失調症薬物治療多剤併用が行われました。今でも一部で行われています。「こっちの薬で幻覚・妄想を抑え、あっちの薬で衝動性を抑えつつ、そっちの薬で賦活する」ってな具合です。私の身の周りでは「サジ加減」なんて表現が用いられます。この手の調整は医師が敏感に患者の変化を感じ取ろうと試み各薬剤の特性について信念を抱き、処方箋に向かうのです。その一生懸命な姿勢は素晴らしいものです。

 しかし、私はそれを否定します。多剤併用を否定します。これは私だけでなく、今では一般的に否定されています。この様な処方は医師の万能感に基づくものであり、医師ひとりがそんなに万能なハズがありません。自分自身が医師ですが「医師=スーパーマン説」を否定します。

「薬の特性について、医師一人が感じ取れることは嘘かも知れない」
「医師が語る薬の特性は迷信かもしれない」

 そう常に自分自身に言い聞かせるように心がけてます。

 処方していて、目の前の患者さんにいろんな変化が起きます。しかし、それは1)そう見えただけかもしれませんし、2)たまたまかもしれません

 

Glasses_2  1)医師の眼は曇ってます
 「効け!」と思って処方した薬は効いてくれないと困ります。しかし、そんなことは実際に起こります。薬が効かないと、無意識下に葛藤が生じます。その葛藤を解決するため、効いたと信じることにしがちです(それも無意識下で)。そして、それを信じてしまいます。
 違うパターンも考えられます。「効け!」と思って、その患者さんが効かないタイプだったとき、その失望は大きいもの。「効かなかったぁぁっ!(>_<」という印象は非常に強く残り、その薬を「効かない薬剤」と分類してしまうかもしれません。

 その他にも、医師は様々な感情を持って処方箋に向かいます。そして、感情は無意識下で医者の診る目を曇らせます。医師も人間なのです。私も、です。

 

Dice 2)「たまたま」に踊らされます
 処方をしていると、目の前の患者さんに様々な変化が生じます。例えば……

 ルーランを処方して、患者さんが激太りしたことがあります。しばらく「ルーランは太る薬なんじゃないか」と思っていたことがありました。しかし、データとして、ルーランが特に太りやすい薬ということはありません。リスクで言えばMARTAの方がよっぽど上のハズ。その患者さんが「たまたま」ルーランで太りやすい人だったのでしょう。

 最近ではジェイゾロフトで患者さんが攻撃的になったことがありました。以前の私だったら「ジェイゾロフトは患者さんを『煽る』傾向があるのか」と思い込んだところでしょう。しかし、アクティベーション症候群どの抗うつ薬にだって起こること。ジェイゾロフトで自殺関連事象が少ないことを思えば、むしろアクチベーション症候群のリスクが少ないことすら考えられます。

 医師が持つ信念は、自分(あるいは知っている医者)目の前の患者さんに「たまたま」起きた変化がデータの元なのです。

 

 知らないうちに眼が曇り偶然に踊らされる医者は万能ではありません。薬の特性について、医師一人が感じ取れることは嘘かもしれないんです。医師が語る薬の特性は迷信なのかもしれません。自分自身の感覚も信じすぎないように気をつけてます。

 自分としては患者さんを良くしたつもりでも、患者さんやご家族意見・感想を求めるようにしています。「僕から見て良くなった様に思っちゃうけど、実際にはどうなんだろ」といった具合に。

 そして、患者さんに変化があっても、それがデータとしてどうなのかを製薬会社の人(MRさん)に聞くこともあります。目の前の数人や数十人の患者さんよりも、もっと数百人や数千人(場合によっては数万人)を元にしたデータで語られた論文を参考にするようにしています。

 

 このプシコ・メモメモはそんな姿勢で綴られています。薬による患者さんの変化について書くこともありますが、それは論文や本での根拠があるときに限るようにと思っています。なるべく一個人の意見で書くのではなく、一般的にも良しとされていることを元に書くように気をつけています。

 さて、これをお読みになった皆さんはどのように感じたでしょうか。医師の中には不快に思った方がいらっしゃったかも知れません。それがすごく不安です。ただ、私達=医師の万能感疑問だけでも感じて頂けたら幸いですm(_ _)m


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コメント

おはようございます。
朝イチでやっておきたい仕事があるのでPCを開けたついでにこちらを見たら、satoruさん珍しく(おっと失礼!(^_^;))熱く語っているではありませんか!
薬剤師として処方箋や薬、患者さんと日々向き合っていますが、やっぱり薬に対する印象って正直薬剤師同士でも違ってくることがあります。それは、処方医の方針であったり自らの経験であったり…。つい最近、糖尿病から来る腎機能低下の患者さんに自分の飲んでいるブロプレスのせいで悪くなっているのではないか?とツッコまれ「腎保護作用に優れているって言っていたのは何なのよ?」と色眼鏡どころか視界ゼロの霧の中に放りこまれた気分でした。そして文献やメーカーにとことん当たって自分なりにまとめた結果を出して患者さんにお答えしました。(精密検査をしたところDM由来の腎機能低下が進んでいたということでブロプレスは継続になったようです)
薬も人も、ある一面だけで即判断するのってイケナイなぁと思っています。でも、患者さんの訴え(「たまたま起こった」現象)もちゃんと心にとどめておきます。というのも後々に添付文書が改定されて「実は同じ症状が何件も見つかりました」なんてことだったら大変ですからね(><)
投薬窓口で患者さんに「効かない、効かない」と言われれば、つい焦ることもしばしば。薬不審、医療不審にならないためにも、そんなときこそ曇ったメガネを一度綺麗に拭いて、いろんな情報に当たらないとダメだなぁと感じました。こんな偉そうに語っている私も「スーパー薬剤師」ではないです。欠けている部分はsatoruさん方、お医者さんやメーカーさん、数々の情報で補って患者さんにBESTな医療を提供していきたいと思っています。
そんなこんなでsatoruさん、これからも宜しくお願いします。そして、私の色眼鏡を拭いていただきましたありがとうございますw(^v^)v

投稿: cat×cat | 2008年2月25日 (月) 07:14

>スーパー薬剤師のcat×catさん
朝からお疲れ様です。朝イチで仕事するハズが、朝イチでコメント頂いちゃいました(笑

ご指摘の通り、珍しく「熱め」の記事でした。嫌な想いをされることがないか心配でしたが、少しでもプラスに理解して頂ける方がいらっしゃったのであれば幸いです。

ブロプレスの件についても、きちんと対応されたとのこと。労力もかかったでしょうに、素晴らしい姿勢ですね。どうぞ、これからも頑張って下さいね(^-^b

投稿: satoru | 2008年2月25日 (月) 12:57

>我が師匠satoruさん(笑)

こんばんは。だから私は「スーパー薬剤師」じゃないですってばさっ!(^_^;)
satoruさんを前にして言うのも申し訳ないですが医師の中には「自分が1番正しい」と思っている方もいらっしゃるようで患者さんの訴えを真摯に聞き入れないため、薬局で不満をおっしゃる患者さんも少なくないです。かと言って、あまりこちら(薬剤師側)から直接Dr.に聞くと噛みつかれてしまうこともありますので…(+o+)
先のブロプレスの患者さん、実は病院やDr.にも不審感があり私に他の病院を紹介してほしいと相談してきました。こっちの調査(?)もじっくり行って患者さんに伝えました。現在はいくつか紹介した中のある病院に通っており、そこのDr.とは良い関係で治療を続けていると後日手紙をいただきました。門前薬局で働く以上、応需先の医師の評判を下げてしまうのではないかと悩みましたが、やっぱり患者さんには納得のいく治療をしてもらいたいという気持ちが強かったので思い切って紹介しました。(「患者さん逃してスミマセン!」と上司に謝りましたけどね(^_^;))でも私の行動が本当に正しかったか今でも悩む時もあります。う~ん困った…(-_-)
あと「たまたま」に関して言えば"偶然は起きても3回まで"と思っています。だって偶然が何回も起これば、それは必然に限りなく近いから。仕事だけでなく生活全般においてもこのポリシーですね(*^^)v
今後、完璧にはなれないけど完璧に近づくことはできるかもしれない。(ジグソーパスルって完成後より完成間近が一番面白いと思う性分なんでw)
一歩一歩着実に知識を積み重ねたいですね。

投稿: cat×cat | 2008年2月25日 (月) 22:13

>cat×catさん
cat×catさんを弟子にとった覚えはありませんね~w
医師の中には独善的な理論で「自分が正しい」と貫こうとする人がいます。こーいう人は問題ですよね。コメディカルの皆さんはそーいう医者の対応には苦心されていることでしょう。
ブロプレスの話には続きがありましたか。それも、ちょっとドラマチックな。自分の心に反したことをしていると、モチベーションに支障を来たすもの。「店員」としては失敗かもしれませんが、「医療者」としては真面目な正しい行動だったように思えます。ちょっとカッコいいんじゃないですか?(^-^b
「偶然は起きても3回まで」はちょっと面白いですね。まぁ、偶然(実は必然)で3回起きる頃には、何らかの文献が出てることでしょう。そこも冷静に対処したいですね(^-^)

投稿: satoru | 2008年2月25日 (月) 23:30

先生も人間なんだよね・・・って思いました。失礼な言葉ですが、私(患者)にとって、医者の判断は完璧とはまで行かないけど、信頼、しんじきってしまいがちですから・・
先生も考えて、考えて、一番いい方法を考え出してくれているんですよね。
ありがたいです。
だから、自分の症状が悪くなったりすると、申し訳なくなったりします。報告しにくいです。
先生ごめんなさいって思っちゃう。

投稿: めだか | 2008年2月26日 (火) 18:47

>めだかさん
医者も人間ですね。人間というもの、全てが見えると思うと真実が見えなくなり、真実が見えなくなっていることを知ればいくらかの真実が見えてくるものです。
「完璧」ではなく「できるだけメリットを得る確率が高く、デメリットが生じる率が少ない」ようにしています。あとは確率論になるので、何でも完璧だとは思わないようにして下さいね。だから「合わないように感じた」は報告していいんですよ(^-^b

投稿: satoru | 2008年2月26日 (火) 21:47

うちの主治医もsatoru先生の方針に似てます。
基本的に単剤処方。そして、患者の変化をじっくり観察し、薬の効き方から個体(患者)の特性を見極めていくタイプ。(もちろん、薬の効き方には個体差があるということも念頭に置いてのこと)
なので、私も遠慮せず「今飲んでいる薬がどのように効いているのか(あるいはどのように邪魔しているのか)」をありのままに報告するようにしています。
そのお陰で、自分自身も自分の状態をうまく把握出来るようになりました。そうすると今度は「全て医者任せではなく、自分も治療に参加している」という意識が生まれ、結果的に主治医との信頼関係も強くなったように思います。

「急がば回れ」的なメリットがあるのかもしれませんね、シンプルな処方には。

そういえば、初めてプシコ・メモメモを拝見した時、スッと頭に入ってくる「読みやすさ」が心地よかった理由が、今日の記事を読んで分かったような気がしました。

投稿: bol | 2008年2月28日 (木) 00:56

>bolさん
「心地よい読みやすさ」とはお褒め頂きありがとうございます。医者任せではなく、意義やデメリットを理解した上で治療参加という意識は現代の医療では望ましいことだと思いますよ(^-^b

プシコ・メモメモは基本的には医療者を対象に書いてます。しかし患者さん自身が勉強するために読むかもしれないと意識しながら書いてます。患者さん皆さんの自己学習にもつながると素敵ですね。

以前、横浜の医師と薬物治療について話し合った際に「アレが効かない、コッチがいい」とアレコレせずに、現段階で最もコンセンサスが得られていて妥当と思われるリスパダールを地道に飲み続けていれば大抵は効くものではないか、との意見を耳にすることがありました。それも「急がば回れ」なのかもしれませんね。

興味深いご意見、ありがとうございました(^-^)

投稿: satoru | 2008年2月28日 (木) 11:34

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